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ナルシスト5「ライバル店出現!」
ツボ ぐりぐり、ぐりぐり、ぐりぐり...
ママは、今日も「若さを保つツボ」押しに余念がない。

「ねえ、トニーちゃん。最近、お客さんが減ったように感じるのは気のせい?」

(いや、気のせいではない。そもそもの原因はあなたでしょうが。店がオープンしてしばらくたった頃、「ちょっと疲れたからお休みちょうだい。あと、お願いね。」などと言い残し、南の島へ旅立ってしまったんじゃないか。おかげで、スタッフ達の士気は下がり、売り上げまで冷え込んでしまったのだ..)
なんて、本音が言えるわけがない。だって、僕はあなたを、そんなあなたを...こみ上げる想いが、口から飛び出しそうになった。

「原因は、近くに新しい店が出来たからだと思いますよ。なかなか繁盛してるようです。うちに負けず劣らず、かわいい男の子揃えてるみたいですし、店の質もいいと評判です。」
まあ、それも原因の一つには違いない。
「へええ、かわいい男の子をねえ...それは強敵だわ。ちょっと偵察にいってくるわね!」
ママは、少し頬を紅潮させていた。 「へえ、オーナーとしては気になりますか?」
「そりゃあ、お客さんが流れてると聞いてはね。」
ふふふ、店のことなんかより、かわいい男の子という部分がひっかかったに違いないのに。そう思うと、トニーはついつい口元がゆるんだ。
りっちい
「ほんとに、すぐ近くだわ。でもなんかパッとしない感じの店よねえ。いったい何が、うちに勝るというのかしら..?」

そう、自分のゴージャス趣味を反映させた「ナルシスト」と違って、木製の重いドアが壁に埋め込まれただけのその店は、地味な印象を受けた。ドアには「Fantasy」という看板がかかっていた。
ギギーッ...ドアを開けると、ピアノの音が耳に入ってきた。

「いらっしゃい。初めてのお客様ですか?」
目の前に立った明るい声の男性は、上半身に何もまとっていない。

「キャアアッ、なんてかわいいのかしら!」思わず歓喜の声をあげそうになるのを、必死で押し殺した。
「ええ、初めてなんです...」
「あ、さようでございますか。では、こちらへ..」
薄暗い足元を、小さなペンライトで照らされながらゆっくり足を運ぶと、奥のソファへと通された。

ダニエル 「いらっしゃいませ、ダニエルです。」
やがて現れた青年は、ノースリーブのシャツからたくましい二の腕を露出させていた。
「はううっ!なんて、この店はアタシのツボにヒットする子ばかり揃えてるのかしら!」
そう、この店のスタッフたちは、見事な肢体を惜しげもなくさらしていた。皆、そうとう身体を鍛えていて、自信を持っているようだ。

「はじめまして。どうぞよろしく」と、ダニエルは片ひざをつき、おしぼりを広げながら差し出す。盛り上がった二の腕の筋肉にときめきながらも、耳は流れるピアノの音と、声に聞き入っていた。

周杰倫 店の中央に目をやると、ピアノの弾き語りをしている青年..いや少年といってもいい彼、に気が付いた。
彼の声は、容姿そのままに幼さが残るものだった。けど、それはレスリーの耳に心地よく響き、胸の奥を羽根でくすぐられるような気分になった。
「ああっ、この子がうちの店に欲しい、欲しいっ、欲しいわーっ!」
「欲しい」は一つの意味だけではない...

「あっ、あのちょっと!歌ってる男の子を呼んでくださる?」と、横に座ったダニエルの耳元にささやいた。
「ああ、Jay?あいつはただのピアノ弾きで、お客様の話し相手になる男ではありませんよ。僕では、満足できないと..?」
「そうじゃないのよ。ごめんなさいね。お願い!」そう言うと、ジーンズのポケットに数枚の万札をねじ込んだ。
「...少々お待ちください。」

物好きな客だとでも言いたげな表情で、ピアノを弾くJayの方に歩いていき、歌い終わったと同時に耳打ちをした。ダニエルがあごでレスリーの席を示すと、Jayはけげんな表情で見つめた。
そして、かたわらに置いたノースリーブのシャツを着ると、こちらにやってきた。

「はじめまして。どうぞ、座ってちょうだい。」すすめられるままに、無言で彼はソファに腰をおろす。
「実はね..ここだけの話なんだけど、あなたをうちの店に迎え入れたいのよ。そう、ヘッドハンティングと思ってくれていいわ。お給料は、あなたの欲しいだけ出すわ。どうかしら?」
「興味ないんだよ、そういうの。ずっとこの世界で生きてくつもりじゃないから」 Jayは表情も変えずにそう言い放った。
「将来、どうするか考えてるの?」
「これはただのバイト。いずれ、シンガーソングライターとしてデビューするから。」
「まあ、デビューだなんて..夢を見るのはいいことけど、世の中そんな甘いもんじゃないのよ。」

周杰倫 諭すように言ったレスリーに、ほほ笑みを返すと
「はいはいはい、わかりました。大人はみんなそう言うけどね。いずれ、アジア中に僕の作った歌が流れるようになるよ。そしたら、僕のことを思い出してよ。」

それだけ言うと、さっと席を立ち再びピアノに向かい、次の曲を弾き始めた。

「このアタシがスカウトに失敗した...」初めてのことにとまどいながら、ふらふらとした足取りで店を出る。
「アジア中に彼の作った歌が流れる..」Jayの言った言葉を、何度も思い出しながら、あの子ならそれも夢ではないかもしれないと思った。今まで見てきたその他大勢の芸能界志望者とは違う何かを、彼の敏感なアンテナは感じ取っていた。
「あの子なら、ほんとにやってくれるかもしれないなあ。」と、初めてのスカウト失敗さえ忘れるほどの、すがすがしささえ感じていた。その表情は、長年この世界の第一線で生きてきた男の自信が漂っていた...この瞬間までは。

「いやーん、領収書もらってくんの、忘れちゃったー!トニーに怒られちゃうん!」
内股で小走りに引き返す彼には、もう男の自信は消えていた。



次の日、ナルシストのロッカールームには、ママの達筆な字で書かれた社訓が貼られていた。

1、素肌にシャツ。
1、シャツは、第三ボタンまで開けること。
1、身体は常に鍛えること。腹筋は割れてるほうが望ましい。

「いったい、何があったんだろう...?」子犬のように小首をかしげるトニーだった。

文・妄想:(c)梨花/文章、画像の無断転載、流用は厳禁です。
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