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今夜の番組チェック

プロローグ:北京スカウト編
「あー、疲れた。いくら隣の国とはいえ、しんどいわあ!」

レスリーが疲れているのも、無理はない。客には「20代なのー」と平気で大ウソついているが、実はとうに三十路を越えているのだ。最近は、枕にも抜け毛が目立ち始めた。

「早いとこ、お店を軌道にのせないとねえ。アタシの気力と美貌が衰えないうちに...」

タクシーの中で考え事をしながら、やがて北京体育大学に到着した。一歩門をくぐると、そこはかとなく若い男達の汗の匂いがした。

「ああ!素敵、素敵い!ガタイのいい男の子たちが、いっぱいよおお!」

彼は、歓喜の声をあげた。その足で「就職あっせん課」に飛び込み、体育館に学生を集めるよう頼んだ。
実はここの職員をしている「張學友」は日本に留学中、スナック「欲望の翼」でバーテンダーをしていたのだ。
在日中、彼はなにかとレスリーに食事をおごってもらったり、車を貸してもらったり、時には彼女のお世話も..ありとあらゆる面倒をみてもらっていた。おかげで、今だに彼には頭が上がらない。學友は、一度受けた恩は一生忘れない律義な男であった。

「全校生徒の皆さん、就職についての案内があります。ただちに、第一体育館に集まってください。」

學友がアナウンスをすると、わらわらと学生達が体育館に集合した。

Leslie 「皆さん、こんにちは。僕は日本で、サービス業の会社を経営しています。今日は、皆さんにぜひ我が社への就職をと思い、訪問した次第です。」

レスリーは、営業用の男らしい生真面目な挨拶をした。

「我が社の仕事は、何がなくともまず体力です。そこで、就職希望の皆さんに体力のほどを見せていただきたいと思います。」

などと、巧みに話を持っていった。 学生達は、それぞれバーベルを持ち上げたり、ある者は腕立て伏せを数百回も行ったり、鉄棒などをやってみせた。

「うーん、なんかピンとこないわねえ..」
その時、一人の学生が彼の目に留まった。

その学生は、ぼんやりと壁にもたれて立っていた。小さい頭、すっきりとした顔立ち、すらりと伸びた肢体、厚い胸板..青年は、彼の望むものをすべて持っていた。

「この子よおお!今、ピーンときたわっ!この子が、うちのお店には必要なのよっ!」
彼は胸の高鳴りを感じたが、表面上は押さえつつその学生に話し掛けた。

「えーと、そこの君。ちょっと、ここへ来て何かやってみせてくれない?」

青年は言われるままに、自分の習っている拳法を披露した。それは、目にも止まらぬ素早さとしなやかさで、レスリーを魅了した。

「ねえ、君。今から契約の話をしましょう。君の名前は?」

「あ、自分は趙文卓といいます。この大学の2年生です。」

「それで、契約なんだけど..とりあえず、1年くらいうちのお店..あ、いえ、うちの会社でアルバイトしてみるってのはどうかな?」
レスリーは、青年が水商売であることを知ったら引いてしまうのではないかと思い、そのあたりをにごして話した。

zhuo
「はあ、でも、自分はまだ学生ですし。両親とも話し合わないと..」

「差し出がましいようだけど、君の家庭環境について教えてくれる?」

「自分は、3人兄弟の末っ子として、ハルピンで生まれ育ちました。両親は、太極拳の講師をしています。小さいころからずっと貧しくて..おもちゃもあんまり買ってもらえませんでした。友達が持ってる熊のぬいぐるみを見て、すごくうらやましくって...着るものは、いつもこういうスポーツウエアです。」

「そう..苦労したんだねえ。もし、君が我が社に来てくれるなら、お給料はこれだけ出すよ。どうかな?」

レスリーは、メモ用紙にさらさらとペンを走らせた。その数字は、文卓の生活水準からは考えられない大金であった。

「こっ、こんなにもらえるんですか!これじゃ、うちの父の給料の何倍もの金額です!」

「君がその気になれば、もっと稼げるよ。小さいころ、買えなかった熊のぬいぐるみだって、死ぬほど買えるよ。どうだい?」

「熊のぬいぐるみ、ぬいぐるみ、ぬいぐるみ...」
文卓の頭の中で、その言葉はぐるぐると駆け巡り、エコーさえかかっていた。さらに、追い打ちをかけるようにレスリーは言った。

「ぬいぐるみどころか、着ぐるみだって買えるよ。楽しいぞお!熊ちゃんが着られるなんて!」

文卓の中で、何かがはじけた。「目の前にあるチャンスを逃すな!」そうもう一人の自分が叱咤していた。
「お世話になりますっ!」
もう、文卓に迷いはなかった。彼の心は、未知の国「日本」に飛んでいた。そして、熊たちにかこまれる夢の生活を思い描き、目は宙を追った。
今の文卓には、小指を立てながら小さくガッツポーズをするレスリーの姿など、目に入っていない。
そして、これからの自分の過酷な運命など、まだ想像もついていなかった...


レスリーママの口八丁手八丁に、まんまとのってしまったまっすぐ青年「趙文卓」に明日はあるのかっ!?
「ナルシストついに開店!」編へつづく

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