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「あー、疲れた。いくら隣の国とはいえ、しんどいわあ!」
レスリーが疲れているのも、無理はない。客には「20代なのー」と平気で大ウソついているが、実はとうに三十路を越えているのだ。最近は、枕にも抜け毛が目立ち始めた。 「早いとこ、お店を軌道にのせないとねえ。アタシの気力と美貌が衰えないうちに...」 タクシーの中で考え事をしながら、やがて北京体育大学に到着した。一歩門をくぐると、そこはかとなく若い男達の汗の匂いがした。 「ああ!素敵、素敵い!ガタイのいい男の子たちが、いっぱいよおお!」
彼は、歓喜の声をあげた。その足で「就職あっせん課」に飛び込み、体育館に学生を集めるよう頼んだ。 「全校生徒の皆さん、就職についての案内があります。ただちに、第一体育館に集まってください。」 學友がアナウンスをすると、わらわらと学生達が体育館に集合した。 |
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「皆さん、こんにちは。僕は日本で、サービス業の会社を経営しています。今日は、皆さんにぜひ我が社への就職をと思い、訪問した次第です。」 レスリーは、営業用の男らしい生真面目な挨拶をした。 「我が社の仕事は、何がなくともまず体力です。そこで、就職希望の皆さんに体力のほどを見せていただきたいと思います。」 などと、巧みに話を持っていった。 学生達は、それぞれバーベルを持ち上げたり、ある者は腕立て伏せを数百回も行ったり、鉄棒などをやってみせた。
「うーん、なんかピンとこないわねえ..」
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その学生は、ぼんやりと壁にもたれて立っていた。小さい頭、すっきりとした顔立ち、すらりと伸びた肢体、厚い胸板..青年は、彼の望むものをすべて持っていた。
「この子よおお!今、ピーンときたわっ!この子が、うちのお店には必要なのよっ!」 「えーと、そこの君。ちょっと、ここへ来て何かやってみせてくれない?」 青年は言われるままに、自分の習っている拳法を披露した。それは、目にも止まらぬ素早さとしなやかさで、レスリーを魅了した。 「ねえ、君。今から契約の話をしましょう。君の名前は?」 「あ、自分は趙文卓といいます。この大学の2年生です。」
「それで、契約なんだけど..とりあえず、1年くらいうちのお店..あ、いえ、うちの会社でアルバイトしてみるってのはどうかな?」
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「はあ、でも、自分はまだ学生ですし。両親とも話し合わないと..」
「差し出がましいようだけど、君の家庭環境について教えてくれる?」 「自分は、3人兄弟の末っ子として、ハルピンで生まれ育ちました。両親は、太極拳の講師をしています。小さいころからずっと貧しくて..おもちゃもあんまり買ってもらえませんでした。友達が持ってる熊のぬいぐるみを見て、すごくうらやましくって...着るものは、いつもこういうスポーツウエアです。」 「そう..苦労したんだねえ。もし、君が我が社に来てくれるなら、お給料はこれだけ出すよ。どうかな?」 レスリーは、メモ用紙にさらさらとペンを走らせた。その数字は、文卓の生活水準からは考えられない大金であった。 「こっ、こんなにもらえるんですか!これじゃ、うちの父の給料の何倍もの金額です!」 「君がその気になれば、もっと稼げるよ。小さいころ、買えなかった熊のぬいぐるみだって、死ぬほど買えるよ。どうだい?」
「熊のぬいぐるみ、ぬいぐるみ、ぬいぐるみ...」
「ぬいぐるみどころか、着ぐるみだって買えるよ。楽しいぞお!熊ちゃんが着られるなんて!」
文卓の中で、何かがはじけた。「目の前にあるチャンスを逃すな!」そうもう一人の自分が叱咤していた。 |
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